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老後守る「後見人」浸透せず
2026/02/27 10:00
日経速報ニュース
【この記事の内容】
『成年後見は危険?9割が知らない“落とし穴”と対策とは』
はじめに
介護の現場には「権利擁護」という大切な考え方があります。
これは、認知症などによって判断力が弱くなった高齢者が、不利益を受けないように法律や制度を活用して生活や財産を守るという支援の在り方です。
ビジネスの世界でたとえるなら、企業における「ガバナンス(統治体制)」に近いものがあります。
会社も内部統制が弱ければ、不正や損失のリスクが高まります。
同じように、高齢者の生活にも“仕組み”による支えが必要です。
その仕組みの一つが成年後見制度です。
成年後見制度は、よく「転ばぬ先の杖」と説明されます。
しかし実際には、転倒を防ぐというよりも、「転んだ後に生活と財産を立て直す安全ネット」に近い制度です。
ところが現場では、「そのネットは本当に安全なのか」という不安の声が少なくありません。
制度はあるのに利用が広がらない。
その背景には、介護者、高齢者、家族、そして地域それぞれの葛藤があります。
本記事では、その不安の正体を整理し、介護者としてどのように向き合うべきかを分かりやすく考えていきます。
成年後見制度が広がらない本当の理由
成年後見制度は2000年に始まった制度で、判断能力が不十分な人に代わって契約や財産管理を支援する仕組みです。
大きく分けると、家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見」と、本人が元気なうちに後見人を決めておく「任意後見」の二つがあります。
将来的に認知症の人は500万人を超えると推計されていますが、制度の利用者は約25万人にとどまっています。
単純計算でも、対象となり得る人のごく一部しか活用していない状況です。
なぜ利用が進まないのでしょうか。
結論から言えば、「守る制度」であるはずが、「管理される制度」に見えてしまっているからです。
独居高齢者の増加により、親族ではなく専門職が後見人に選ばれる割合が高まっています。
一方で、専門職による不正事案が報道されることもあり、「本当に任せて大丈夫なのか」という疑念が広がっています。
また、家族の意向と後見人の判断が食い違うケースもあり、「思っていた支援と違う」という不満も生まれています。
制度の理念と、利用者の実感との間にズレがあることが、最大の課題なのです。
認知症高齢者の心境と背景
まず理解すべきは、高齢者本人の気持ちです。
多くの高齢者は、「自分はまだ大丈夫だ」という思いを持っています。
長年社会を支えてきた自負もあり、財産管理を他人に任せることは、能力を否定されるように感じることもあります。
また、「子どもに迷惑をかけたくない」という遠慮から、問題を表に出さない場合もあります。
しかし現実には、高齢者を狙った詐欺被害は後を絶ちません。
被害の多くが高齢者層に集中していると言われています。
それでも当事者は「自分は被害に遭わない」と考えてしまいます。
これは心理学でいう“正常性バイアス”に近い状態です。
つまり、危険があっても自分だけは大丈夫だと感じてしまうのです。
家族が抱える葛藤
家族にも複雑な思いがあります。
財産を守りたい気持ちはある。
しかし、親の尊厳は守りたい。
専門職に任せたいが、不正のニュースを見ると不安になる。
自分が後見人になるには時間も知識も足りない。
その結果、「今はまだ様子を見よう」と先送りにしてしまうことが少なくありません。
しかしビジネスにおいても、リスク対応を先延ばしにすることは経営上の大きな危険です。
コンプライアンス体制を整えずに問題が起きてから対応する
企業は、信用を大きく損ないます。
成年後見も同じで、問題が起きてからでは選択肢が狭まります。
何もしないことは、中立ではなく「無防備」という選択になる可能性があるのです。
介護者として求められる具体的な対応
では、介護者は何をすべきでしょうか。
結論は明確です。
制度を説明する人ではなく、「選択を支える人」になることです。
成年後見を使うかどうかではなく、どの形がその人に合うのかを一緒に考えることが重要です。
任意後見であれば、本人が元気なうちに後見人や支援内容を決めることができます。
これは、企業でいう事業承継計画のようなものです。
将来のリスクに備え、事前に設計しておくのです。
また、法人後見という選択肢もあります。
複数人で管理することで透明性が高まるというメリットがありますが、地域によっては人手不足や財源不足の課題もあります。
地域資源を把握し、どの選択肢が現実的かを見極めることも介護者の役割です。
さらに重要なのは、多職種連携です。
ケアマネジャー、地域包括支援センター、医療機関、家族が情報を共有し、外部の目を増やすことで、不安は軽減されます。
成年後見を「保護」と「自己決定」の視点で考える
介護現場では、身体拘束を極力なくす取り組みが進んでいます。
安全のためであっても、自由を奪うことには慎重であるべきだという考え方です。
成年後見も同じ構造を持っています。
財産を守る一方で、本人の契約自由を制限する側面があります。
これは「保護」と「自己決定」のバランスの問題です。
近年、介護では「意思決定支援」が重視されています。
本人が自分の人生をどう生きたいかを支える視点です。
成年後見も、単なる代行ではなく、本人の意思をどう反映させるかという観点で活用されるべきです。
介護者としての最終提言
成年後見制度への不安は、制度そのものよりも、「見えにくさ」から生まれています。
だからこそ介護者に求められるのは、制度の説明者ではなく、対話の伴走者になることです。
早い段階から将来の選択肢を共有し、本人の価値観を言葉にし、家族と地域をつなぐ。
その積み重ねが、不安を具体的な準備へと変えていきます。
成年後見は万能ではありません。
しかし、正しく理解し、適切に設計すれば、大切な生活と財産を守る有効な仕組みになります。
超高齢社会において、介護者は生活支援者であると同時に、人生のリスクマネジャーでもあります。
不安をなくすことはできなくても、不安を整理し、備えることはできます。
それこそが、これからの介護専門職に求められる本質的な役割ではないでしょうか。



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