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2026/03/06 13:52
日経速報ニュース
【この記事の内容】
『介護者の9割が気づかない…高齢者がマスクを使いにくい本当の理由とは?』
はじめに
介護分野では「環境調整」という考え方があります。
これは、高齢者本人の能力だけに頼るのではなく、周囲の環境や道具を工夫することで生活のしやすさを高める支援の方法です。
例えば、手の力が弱くなった場合には握りやすいスプーンを使い、立ち上がることが難しい場合には手すりを設置します。
また、認知機能が低下した場合には、文字を大きくしたり色を分けたりして、視覚的に分かりやすい表示を増やします。
このように、本人の努力だけに頼るのではなく、生活環境を整えることで負担を減らすことが重要になります。
この考え方は、日常生活で使われる「マスク」にも当てはまります。
現在、多くの職場や生活環境ではマスクの使用が続いており、継続的にマスクを使用している人はおよそ8割程度といわれています。
その中でも、箱入りタイプのマスクを利用している人は7割以上とされ、日常的に箱入りマスクが使用されています。
しかし一方で、箱入りマスクには使いづらさを感じる人も少なくありません。
箱の開閉がしにくい、マスクが取り出しにくいと感じる人は約6割程度いるといわれています。
この問題を介護の視点から考えると、高齢者にとってはさらに大きな負担になっている可能性があります。
加齢によって手の力や指先の感覚が低下すると、箱を開ける、マスクを1枚だけ取り出すといった細かい動作が難しくなるからです。
つまり、問題はマスクの使い方ではなく、マスクを取り巻く環境にあるといえます。
ビジネスの世界では「ユーザー体験(UX)」という考え方があります。
これは、商品そのものだけではなく、その商品を使う過程の体験まで含めて価値を考えるという考え方です。
この考え方を介護に当てはめると、高齢者がマスクを使うという行為だけではなく、
「どのように取り出すのか」
「どこに置くのか」
「どれくらい簡単に使えるのか」
といった一連の生活体験まで含めて考える必要があります。
本記事では、介護者の視点から高齢者のマスク使用について考察し、高齢者本人、介護者、家族、そして地域という四つの視点から課題と対応について整理していきます。
高齢者がマスクを使いにくい背景
身体機能の変化
結論から言えば、高齢者は加齢による身体機能の変化によって、マスクを扱う細かな動作が難しくなることがあります。
年齢を重ねると、握力の低下や指先の感覚の変化、肩や腕の可動域の低下、視力の低下などが起こります。
これらの変化は日常生活のさまざまな動作に影響を与えます。
例えば、箱入りマスクのフタを開ける動作は、若い世代にとっては簡単でも、高齢者にとっては意外と難しい動作になることがあります。
また、箱の中からマスクを1枚だけ取り出すという行為も、指先の感覚が低下すると難しくなります。
介護現場では、箱の中でマスクが絡まり複数枚出てしまったり、残りが少なくなると取り出せなくなったりする場面も見られます。
また、フタが閉まらず衛生面が気になるという声もあります。
さらに重要なのは、多くの高齢者が「できない」と言い出しにくいという点です。
周囲に迷惑をかけたくないという思いから、不便を感じていてもそのまま我慢してしまうことがあります。
心理的な背景
高齢者のマスク使用の問題には、身体的な要因だけでなく心理的な要因も関係しています。
多くの高齢者は、
「周囲に迷惑をかけたくない」
「できることは自分でやりたい」
「年寄り扱いされたくない」
という思いを持っています。
そのため、本当は困っていても助けを求めず、自分だけで何とかしようとすることがあります。
また、感染症の流行を経験したことで、
「周囲にうつしたくない」
「自分も感染したくない」
という不安を強く感じている高齢者も少なくありません。
そのため、マスクは単なる衛生用品ではなく、安心感を得るための生活の一部になっています。
この心理的な側面を理解することも、介護者にとって重要な視点です。
介護者視点の課題と対応
課題
介護者の立場から見ると、マスクの管理にはいくつかの課題があります。
まず、マスク交換の手間です。
施設や在宅介護では、食事や排泄、入浴など多くの介護業務があります。
そのため、マスクの管理まで細かく対応することが難しい場面もあります。
また、衛生管理の問題もあります。
マスクが取り出しにくいと、箱の中に手を入れる回数が増え、衛生面のリスクが高まる可能性があります。
さらに、高齢者の自立支援とのバランスも重要です。
すべてを介護者が行ってしまうと、高齢者の生活能力を維持する機会が失われてしまうからです。
対応策
介護者として重要なのは、マスクを管理することではなく、使いやすい環境を整えることです。
例えば、取り出しやすいマスクを選ぶことや、マスクを取りやすい場所に置くことが効果的です。
また、個包装タイプのマスクを使うことで取り出しやすさが向上する場合もあります。
さらに、1日分のマスクをケースに入れて準備しておく、マスクの置き場所を固定するなど、動作を減らす工夫も有効です。
そして最も大切なのは、高齢者本人が取りやすい方法を一緒に考えることです。
手順をできるだけシンプルにし、できる部分は本人に任せることで、自立した生活を支えることができます。
高齢者視点の課題と対応
高齢者の立場から見ると、マスクに関する困りごとは意外と多くあります。
例えば、箱からマスクを取り出しにくい、ゴムを耳にかけにくい、長時間つけていると息苦しいなどの問題があります。
また、どこに置いたか忘れてしまうということもあります。
特に認知症がある場合には、マスクをつける意味が分かりにくくなることもあります。
認知症とは、脳の機能が低下し、記憶や判断力が低下する状態を指します。
このような場合、介護者は無理にマスクを着用させるのではなく、理由を簡単に説明したり、不快感の少ないマスクを選んだりすることが大切です。
小さめのサイズや柔らかいゴム、軽い素材のマスクを選ぶことで、負担を減らすことができます。
家族視点の課題と対応
家族にとっての課題は、感染対策と高齢者の生活の快適さをどのように両立させるかという点です。
家族は
「親が感染しないだろうか」
「施設で感染が広がらないだろうか」
「マスクはきちんと管理できているだろうか」
といった不安を抱えています。
そのため、必要以上にマスクの着用を求めてしまうこともあります。
しかし、重要なのは強制することではなく、高齢者が使いやすい環境を整えることです。
家族としては、使いやすいマスクを準備したり、置き場所を決めたり、定期的に補充したりすることで支援することができます。
また、「できないこと」に注目するのではなく、「どうすればできるのか」を一緒に考える姿勢が大切です。
地域視点の課題と対応
高齢化が進む社会では、地域全体で高齢者の感染対策を考える必要があります。
地域では、高齢者の孤立や情報格差、生活物資の入手が難しいといった問題が見られます。
特に一人暮らしの高齢者では、マスクを買いに行けない、箱が開けにくい、使い方が分からないといった問題が起こることがあります。
そのため、地域による見守りや支援が重要になります。民生委員による見守り活動や、地域包括支援センターへの相談、ボランティアによる物資支援などが有効です。
地域包括支援センターとは、高齢者の生活支援や介護相談を行う地域の窓口です。
介護業界で起きている変化
現在、介護業界では「誰でも使いやすい環境をつくる」という考え方が広がっています。従来は、できないことを介護者が補うという考え方が中心でした。
しかし現在は、道具や環境を工夫することで、高齢者が自分でできることを増やすという方向に変化しています。
これはビジネスの世界でいう「ユニバーサルデザイン」の考え方にも近いものです。
つまり、特定の人だけではなく、誰にとっても使いやすい設計を目指すという考え方です。
マスクのパッケージや介護用品の開発でも、このような発想が取り入れられるようになっています。
介護者としての結論
介護者として最も重要なのは、高齢者にマスクをつけてもらうことではなく、マスクを使いやすい環境を整えることです。
年齢を重ねると、手の動きや視力、判断力などに変化が生じます。
そのため、これまで簡単にできていたことが難しくなることがあります。
取り出しやすいマスクを選ぶこと、開けやすいパッケージを使うこと、置き場所を分かりやすくすることなど、環境を整えることで負担を減らすことができます。
介護とは、できないことを補うだけの支援ではありません。
本人ができる方法を一緒に見つけ、生活を支えることです。
マスクという小さな生活用品であっても、高齢者の生活の質、つまりQOL(生活の質)に大きく関わります。
これからの介護では、道具、環境、そして地域の視点を組み合わせながら、高齢者が安心して暮らせる社会をつくることが求められていくでしょう。



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