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「聞こえづらい」若者にも多く
自然な会話、ツールが手助け
2025/05/26 02:00
日経速報ニュース

【この記事の内容】
『高齢者に怒鳴ってませんか?逆効果だった“配慮ミス”とは?』
はじめに
高齢者の「聞こえづらさ」は、ただの加齢による聴力低下と片づけられがちです。
しかし、介護現場では、「聞こえていても、聞き取れない」「話されているのはわかっていても、意味がつかめない」といった複雑な困難に直面します。
これはちょうど、道端に咲く花に気づかないのと似ています。
視力があるのに「見えていない」ように、聴力が残っていても、言葉の意味を脳で処理できないそれが『聴覚情報処理障害』です。
特に感音性難聴の方では、「音は聞こえるけれど、言葉として理解できない」状況が発生します。
介護者として、この「見えていても見落とす」状況をどう補えるかが問われています。
「聞こえづらさ」の背景と多様な要因
加齢だけではない、複雑な聞こえの問題「聞こえづらさ」は高齢者だけの問題ではありません。
近年では、若者にも『聴覚情報処理障害(APD)』の診断が増えています。
これは、耳では音が拾えていても、脳でうまく処理できないために、会話についていけないという状態です。

現場で見られる高齢者の反応と心理
高齢者が「聞こえていないこと」を認めるのは、想像以上にストレスです。
・「聞き返すのは恥ずかしい」
・「会話を止めてしまって申し訳ない」
・「周囲に迷惑をかけたくない」
こうした思いから、聞こえたふりをする人が多く、結果として重要な情報を取り逃してしまうこともあります。
介護現場で見られる「聞こえづらさ」への対応策
具体的な問題リスト(私見を含みます)
・薬の説明が正確に伝わっていない
・認知症との区別がつきにくい
・大きな声で話すと威圧的に見える
・複数人での会話に参加できず孤立

コミュニケーションを支える工夫
聞こえづらさを抱える高齢者と円滑なコミュニケーションを行うためには、日常の対応に工夫を凝らすことが重要です。
以下に、介護現場で有効とされる具体的な工夫を5つご紹介します。
まず1つ目は、「声のトーンと話すスピードの調整」です。
ゆっくり、はっきりとした発声を心がけることで、相手にとって言葉が聞き取りやすくなります。
特に感音性難聴の方は、早口だと内容が理解できないことが多いため、話す速さと明瞭さは非常に大切です。
2つ目は、「補聴器の活用と調整支援」です。
補聴器は装着すればすぐに快適になるものではなく、利用者一人ひとりに合わせた調整が必要です。
定期的な点検とフィッティング支援によって、補聴器本来の効果が発揮され、会話の負担が軽減されます。
3つ目は、「高精細音声スピーカー『comuoon(コミューン)』の活用」です。
この機器は話者の声をより明瞭に再生する仕組みで、周囲の雑音に埋もれず、無理に声を張り上げなくても自然なトーンで意思疎通が可能です。
特に薬局や受付などの対面対応で活躍しています。
4つ目は、「会話の要点をメモにして渡すこと」です。
重要な説明や確認事項を紙に書いて手渡すことで、後から見返すことができ、聞き逃しや誤解を防ぐことができます。
これは薬の服用方法や予定の確認などにも非常に役立ちます。
5つ目は、「文字起こしツール『VUEVO(ビューボ)』の導入」です。
このツールは、会話の内容をリアルタイムで文字化してくれるため、複数人での会議や雑談でも、誰が何を話しているのかを視覚的に把握できます。
聞き取りにくいと感じる場面でも安心して会話に参加できる環境が整います。

介護者・家族・地域の立場から見る「聞こえづらさ」への対応
介護者視点:信頼関係を支える会話の質
会話は単なる情報伝達ではなく、「信頼関係の構築手段」です。
・表情や身振り手振りを活用する
・雑談や日常会話も大切にする
・聞こえの不調を指摘するのではなく「どう話すと楽か?」と尋ねる
高齢者視点:「理解してもらえた」という安心感
高齢者は「聞こえづらさ」を周囲に伝えるのが苦手です。
だからこそ、聞き返してもいい環境づくり「伝える側の工夫」があると自信を持てるこれが、生活の質を大きく左右します。
家族視点:見逃しやすい変化に気づく力
・電話で会話がかみ合わなくなってきた
・最近テレビの音量が上がった
・会話が減ってきたこれらは「聞こえづらさ」のサインかもしれません。
地域視点:共生社会の実現に向けた支援体制
地域でも「誰にでも聞こえやすい環境づくり」が重要です。
・銀行や病院窓口のマイク改善
・公共施設での音声明瞭化ツールの導入
・福祉用具の貸出や説明会の実施

ツールは「きっかけ」本質は“対話と理解”
通訳機と外国語学習の関係に似ている
ビューボやcomuoonなどの支援機器は、いわば「通訳機」です。
便利ですが、それだけに頼っていては本当の相互理解には至りません。
重要なのは、「なぜ聞き取りづらいのか?」
「どう話せば届くのか?」を一緒に考えるプロセスです。
現場でできること
・ツール導入だけで満足せず、対話を生むための運用設計を行う
・スタッフへの研修やロールプレイで対応力を高める
・利用者の個別事情を理解するアセスメントの質向上

結論
介護者として「聞こえづらさ」を“共に考える”
姿勢が求められる「聞こえづらさ」は年齢や障害に関係なく誰にでも起こりうることです。
介護者に求められるのは、それを「不便」と捉えるのではなく、「理解と配慮で解決できる課題」と考える姿勢です。
そのためには、
・高齢者の聞こえの特性を理解する
・ツールを活用しつつ、人間的なつながりを忘れない
・周囲の家族や地域とも連携し、支える仕組みをつくる
こうした積み重ねが、高齢者の生活の質を高め、安心して過ごせる社会の土台となります。
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