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高齢求職者が4月最高水準
年金抑制の影響も、
人手不足が追い風
2025/05/30 17:44
日経速報ニュース

【この記事の内容】
『年金では生きていけない?高齢者が働き始める理由とは?』
はじめに
高齢者の就労が過去最多に ~年金抑制と物価高騰、そして人手不足がもたらす「働く高齢者」という選択~
高齢者が仕事を持つことは、単に収入を得る手段ではありません。
それは、社会とのつながりを保ち、自分の役割を実感しながら生きることにもつながります。
最近、ハローワークにおける65歳以上の新規求職者数が過去最多を更新しました。
この動きは、数字以上の意味を持ちます。
介護の現場で見ているのは、「生活のために働く」のではなく、「生活そのものの質を保つために働く」高齢者の姿です。
本記事では、介護者、家族、地域という三つの視点から、高齢者が働くことの意味とその背景にある社会的変化を解き明かしていきます。

高齢者が働く理由:生活と心の両方を支える手段
結論
高齢者が働くのは、経済的必要性だけではない高齢者が仕事を続ける理由は、大きく分けて以下の二つです。
経済的理由
年金だけでは生活費が足りず、働く必要がある
社会的理由
社会とのつながりを保ち、役割を感じていたい高齢者の中には、退所後に「スーパーでレジの仕事をしたい」と話す方がいます。
身体が元気であれば、「誰かの役に立ちたい」「孤立したくない」と感じるのは自然なことです。
制度と経済が高齢者を働かせる構造
「マクロ経済スライド」が高齢者に与える影響
年金は本来、物価や賃金の上昇に応じて増えるはずですが、現役世代の負担を抑える目的で「マクロ経済スライド」という仕組みが導入されています。
これにより年金額の上昇は抑制されており、物価高とのギャップが拡大しています。
たとえば、2023年には年金が2.7%引き上げられましたが、物価は3.2%上昇しました。
さらに2025年には年金が1.9%の増加にとどまる一方、2024年4月の物価上昇率は3.6%と、それを大きく上回っています。
このような状況下では、年金だけでは生活を維持するのが難しくなり、多くの高齢者が「生活費の補填」のために働かざるを得ない状況に追い込まれています。
介護者視点
働くことで生活の質(QOL)は向上する介護者の立場から見ると、就労する高齢者には次のような良い変化が見られます。
・働いている方のほうが精神的に前向きで安定している
・軽度認知症の方が仕事をすることで進行が緩やかになるケースがある
・「まだ社会に必要とされている」という自覚が生まれ、意欲が高まる
ただし、高齢者が長く働くには、健康面への配慮や柔軟な労働環境が不可欠です。
職場だけでなく、地域・福祉関係機関と連携し、支える体制が重要となります。
家族視点
親が働くことへの期待と不安親が高齢になっても働くことをどう受け止めるかは、家族にとっても悩ましい問題です。
・安心材料としては、
→経済的に自立し、仕送りの必要が減る
・家に閉じこもらず、外との接点を持てる
一方の不安は、
・体力や持病への影響
・無理な勤務による過労やケガのリスク
このため、家族としては、高齢者の働き方が「安全で無理のない範囲」であるかを見守り、必要に応じて就労先と連携する姿勢が求められます。
地域視点
高齢者は「余剰」ではなく「戦力」日本商工会議所の調査では、60歳以上の人材の雇用を「強化・拡大したい」と答えた企業が約20%にのぼり、その多くが人手不足を理由に挙げています。
これは、少子化によって若年労働力が減る中で、高齢者が重要な人的資源と認識され始めている証拠です。
しかし、現実には以下のような課題も残されています。
・高齢者に合った職場がまだ少ない
・通勤手段が限られている
・職種が単純作業に偏りがち
・健康維持のための職場環境整備が不十分
こうした課題には、地域行政やNPO、企業が連携し、「高齢者の働きやすい地域モデル」を築いていくことが求められます。

制度改革で「働く高齢者」を後押し
政府はこの現状を受けて、在職老齢年金制度の見直しを進めています。
これは、働いて得た収入と年金を合算した金額が一定以上になると、年金が減額される仕組みです。
この上限を引き上げることで、「働いても年金が減らない」状況が生まれ、就労意欲の向上が期待されます。
2026年度からは月収62万円までは減額されずに受け取れるようになる予定で、制度としての後押しも整いつつあります。

まとめ
高齢者が働くことは「生きがい」と「生活」の両立
結論として、高齢者が働く意義は「生活費の補填」だけではありません。
それ以上に、「生きがい」や「社会的な役割」を持つことが、高齢者の心身の健康維持に大きな影響を与えています。
介護者として私たちは以下の点を意識すべきです。
・高齢者の心身の状態を正しく把握し、適した就労を支援する
・企業や家族と連携し、安全な職場環境をつくる
・高齢者の働きたい気持ちを尊重し、無理のない働き方を提案する
・地域全体で「高齢者が活躍できる社会」を支える意識を持つ
日々の介護現場で学ぶのは、「役割があること」が最大のリハビリであるということです。
年齢に関係なく、誰もが社会の一員として誇りを持てる環境づくりが、これからの高齢社会において極めて重要なのです。
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