医療費の関連記事
「高齢化で医療費増」はあと10年
次は治療費高騰、
対応待ったなし
2025/08/22 05:00
日経速報ニュース

【この記事の内容】
『あと10年?医療保険が“機能しなくなる”理由とは』
はじめに
介護の現場では「予防介護」という言葉がよく使われます。
これは、介護が必要になる前に、日々の食事や運動、地域での交流を通じて心身の機能を維持し、将来的な介護負担を減らす取り組みです。
この考え方を医療費の未来に当てはめてみると、「高齢化が落ち着いても、医療費の増加は止まらない。むしろ“治療の高額化”への備えが必要になる」と言えるでしょう。
これまで「高齢者が増える=医療費が増える」という単純な構図で語られてきましたが、これからの10年でその常識は大きく変わります。
今後の医療費増加は「高齢化」より「治療費高騰」が主因に
高齢者人口の増加はやがて鈍化する
75歳以上の高齢者人口は2040年ごろをピークに増加が鈍くなると予測されています。
その後は、人口減少の影響が医療費を押し下げる要因になるとも言われています。
しかし、それでも医療費全体は増え続けると見られています。
新薬や先端医療による治療費の急騰
近年、がんや難病治療の分野では革新的な新薬が次々と登場しています。
それに伴い、治療費が過去に例を見ないスピードで高騰しています。
たとえば、免疫チェックポイント阻害薬などの抗がん剤は、以前は月に数万円だったものが、今では月50万円を超える治療も珍しくありません。
中には1カ月あたり1000万円を超えるケースも存在します。
こうした高額な治療は、患者にとっては希望の光となる一方で、社会全体の医療費を大きく圧迫しているのが現実です。

治療費高騰は「待ったなし」4つの視点で考える課題と対応策
1. 介護者視点
医療と介護の狭間で増す不安
課題
・高額治療によって介護が長期化
・重度化することが増えている
・治療費の負担が介護者の家計に影響
・延命によって介護の負担がかえって重くなるという矛盾も
対応策
・医師とケアマネジャーの連携による在宅医療と介護の最適化
・延命だけでなく、生活の質(QOL)を重視した「治療の目的」の共有
2. 高齢者本人の視点
選択の難しさと情報の不足
課題
・高額な治療を提示されても、効果の違いや必要性が分かりにくい
・年金生活で高額治療は現実的でないが、断りにくい
対応策
・治療のメリット・デメリットを可視化し、家族とともに意思決定
・緩和ケアや生活重視の選択肢を提示し、本人の意向を尊重する体制整備
3. 家族の視点
経済と感情の板挟み
課題
・「何とか助けたい」という想いと、「経済的に限界」という現実のギャップ
・高額治療後の家族内トラブルも少なくない
対応策
・医療・介護・福祉の専門職によるチーム支援で意思決定をサポート
・生活全体を考えた支援プランの導入で、治療と生活のバランスを取る
4. 地域社会の視点
制度と資源の限界
課題
・高額医療の普及により、地域の医療資源が限界に近づいている
・都市部と地方で医療格差が拡大するリスク
対応策
・医療・介護・福祉を一体的に提供する「地域包括ケアシステム」の拡充
・ジェネリック医薬品の活用や、家庭での残薬管理を通じた無駄な医療費の削減
医療資源の“選択と集中”が今後のカギ
これからの医療制度は、「すべて保険でまかなう」から「本当に必要な治療に資源を集中する」方向へとシフトする必要があります。
今後、特に重要になるのは以下の3点です。
・治療の効果と費用を科学的に評価し、費用対効果の高い医療を選ぶ
・保険適用の基準を見直す
・経済的余力のある人には、それに応じた負担を求める「応能負担」の導入
これらは、少子高齢化で支える側が減る中、制度を持続可能にするための必須条件です。

まとめ
介護現場が今、向き合うべき現実と行動とは?
今後10年で高齢者の増加スピードは鈍化していきますが、医療費はそれとは関係なく増え続けます。
なぜなら、その主因は高齢者の数ではなく、治療そのものの高額化だからです。
介護現場において、これから求められるのは次のような視点です。
・高額治療の目的と効果を丁寧に伝える「意思決定支援」
・医療と介護の連携による、本人の生活を最優先した支援体制
・治療と生活の費用対効果を考慮した支援方針
・行政と協働した、制度改革の後押し
「高齢化さえ乗り越えれば医療費の問題は解決する」という考えは、もはや通用しません。
これからは、「どの治療に、どれだけの社会的資源を使うのか」という選択を、社会全体で迫られる時代です。



コメント