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認知症の人に優しい製品を
2025/08/25 19:00
日経速報ニュース

【この記事の内容】
『認知症の人が一気に自信を失うシーンとは?』
はじめに
介護の現場では「共生ケア(ともに生きるケア)」という考え方があります。
これは、要介護者を一方的に支援される存在と見るのではなく、「ともに生活を築いていく仲間」として捉える視点です。
この考え方は、製品やサービスのあり方にも影響を与えます。
単に「補助機能があるもの」ではなく、「誰にとっても自然に使えること」が重視されるようになっています。
たとえば、認知症の方でも違和感なく使えるものは、結果として誰にとってもやさしいものとなる。
これはビジネスにおけるユニバーサルデザインの考え方と通じています。
認知症の人が直面する「日常生活の壁」
結論として、認知症の方がもっとも困難を感じるのは「日常生活の継続が難しくなること」です。
つまり、“いつも通り”が保てなくなるということです。なぜ生活が続けにくくなるのか?認知症が進行すると、以下のような機能が低下します。
記憶力
やるべきことを忘れたり、同じことを何度も尋ねたりする
判断力
調理中に火を止めるのを忘れる、外出時に道に迷う
理解力
新しい家電や手続きの方法が分からない
注意力
階段でつまずく、日用品を正しく扱えない
これらの変化により、日常生活で使っていた道具やサービスが、急に「使いにくく」「怖いもの」に変わってしまうのです。
「使いやすさ」とは何かを再定義する
では、認知症の方にとっての「使いやすさ」とは何でしょうか?
単に「簡単」であること以上の意味を持ちます。
それは、迷わないこと、混乱しないこと、思い出しやすいこと、そして不安にならないことです。
これらを満たす設計や仕組みが、真の意味での「やさしさ」につながります。
すでに始まっている現場での工夫
以下は、実際に製品開発が進んでいる例です。
・マグネット式ファスナー(YKK)
片手でも簡単に開閉できるため、着替えが自立しやすくなります。
・安全センサー付きガスコンロ
火の消し忘れを自動で検知。調理の継続が可能になります。
・プリペイドカード(家族が残高管理)
金銭管理の不安を減らし、買い物の自由を守ります。
・音声案内付きリモコン
テレビ操作の混乱を防ぎ、孤独感の軽減にもつながります。

多様な視点から見た課題と解決のヒント
介護者の視点課題
本人の不調に気づきにくく、適した製品選びにも時間がかかる
対応策
本人の声を聞く機会を設け、地域の支援機関(ケアマネなど)と連携する
家族の視点課題
「できること」が減る現実に対する喪失感、支援の線引きが難しい
対応策
「まだできること」をサポートする製品を選び、過干渉を避ける仕組みをつくる
本人の視点課題
機能の低下に気づき、自信を失う/新しいものに抵抗感がある
対応策
見た目や使い方が馴染みある製品を選ぶ/繰り返し使える環境を整える
地域・行政の視点課題
必要な製品の情報が届かない/体験できる場が少ない
対応策
自治体で製品体験会を実施/地域包括支援センターと連携した情報提供の強化
今、日本と世界が抱える共通課題
日本政府は2024年12月に「認知症施策推進基本計画」を策定しました。
これは「認知症になっても希望を持って暮らせる社会」を目指すものです。この方針は単なる福祉政策ではありません。
企業が認知症に配慮した製品・サービスを開発することで、新たな市場が形成されつつあります。
国内で蓄積したノウハウやモデルは、今後、急速に高齢化が進むアジア諸国や欧州にも輸出できる可能性があります。
認知症の本人が開発に関わるという「共創型プロセス」も、今後のグローバルスタンダードとなるかもしれません。
介護の現場で今、何が起きているのか?
・見守りセンサーやAI分析など、ICT導入が進んでいる
・認知症対応の住宅改修支援が拡大中
・住民参加型の「リビングラボ」で新製品の試作が行われている
・専門職(認知症ケア専門士)の育成が強化されている
・本人が意思決定に関わるケア会議が主流になってきているこれらはすべて、「認知症と共に生きる社会」を実現するための一歩です。
まとめ
できることを支える社会へ
介護者として私たちが向き合うべきなのは、「できなくなったこと」ではありません。
「まだできること」をどう支えていくか、です。
そのためには、認知症の方が自信を持って生活できる製品やサービスがもっと必要です。
企業・行政・地域・そして介護者が手を取り合い、認知症の方が安心して暮らせる社会を一緒に作っていきましょう。
「認知症の人にやさしい製品づくり」は、私たち全員にとってやさしい未来をつくる第一歩なのです。



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