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認知症の人に優しい製品を
2025/08/25 19:00
日経速報ニュース

【この記事の内容】
『介護者の9割が陥る!認知症対応で“やってはいけない”の行動とは?』
はじめに
介護者の視点で考える「新しい認知症観」
介護の現場では、これまで「認知症=できない人」といった見方が主流でした。
しかし今では、「認知症とともに生きる」ことを前提とした考え方へと大きく変わりつつあります。
これは、認知症のある人を単に支援される立場ではなく、社会の一員として役割を持ち続けられる存在と再定義する流れです。
まさに「助ける相手」から「共に暮らすパートナー」への転換といえます。
この視点は、ビジネス領域で言えば「顧客中心の共創マーケティング」に似ています。
顧客のニーズを拾い上げるだけでなく、一緒に価値を生み出すという考え方です。
介護でも、認知症の本人が生活の主役であり、サービスや製品はその人の可能性を引き出すツールであるべきです。
認知症は「できない」ではなく「まだできる」から始まる
「新しい認知症観」とは、認知症を人生の終わりではなく、新たな生き方のスタートと捉える考え方です。
政府は2024年末、「認知症施策推進基本計画」を発表し、この新たな観点を政策に明記しました。
背景には、認知症や軽度認知障害(MCI)の人が1000万人を超えるという現実があります。
高齢者自身も、「自分の力でできることはしたい」「生活のリズムや役割を持ちたい」と考えています。
支援されるだけでなく、安心して自立した生活を送りたいというのが、多くの高齢者の本音です。

4つの視点から見る、認知症と向き合う課題
1. 介護者の視点
複雑な製品は負担を増やす
介護の現場では、認知症の方が操作できない製品によって混乱が生まれ、結果として介護者の負担が増えることがあります。
使いやすく、わかりやすい製品設計が重要です。
2. 高齢者の視点
尊厳を守りながらサポートされたい
サポートを受けたい反面、「子ども扱いされたくない」という感情も強くあります。
道具やサービスが本人の尊厳を傷つけない設計であることが重要です。
3. 家族の視点
見守りとプライバシーのバランス
遠方に住む家族にとって、見守り機能付きの製品は大きな安心材料ですが、一方で「監視されている」と感じる方もいます。
本人の同意を得たうえでの活用が必要です。
4. 地域の視点
孤立を防ぐ仕組みづくり
認知症の方が地域社会から孤立しないためには、地域全体で支える仕組みが必要です。
見守りネットワークや、買い物・移動支援など、多様な連携が求められます。
認知症の方が製品開発に関わる時代へ
現在では、企業が製品開発に認知症当事者を積極的に招き入れる動きが進んでいます。
これは、ただのヒアリングではなく「当事者が開発者になる」発想です。
たとえば、
・YKKは、磁石でくっつく簡単ファスナーを開発。
手指の感覚が衰えても開閉がスムーズです。
・トヨタは、AIが危険予測をする「サポートカー」を展開。
・ガス機器メーカーは、火の消し忘れを感知して自動停止するコンロを開発。
・金融機関は、家族が使いすぎを防げるプリペイドカードを提供。
こうした製品は「便利」ではなく「安心」と「自立」を提供するツールです。
現場で直面している具体的な課題と工夫
現場の特別養護老人ホームでは、日々さまざまな課題に直面しています。
その中でも、認知症の方にとって特に大きな壁となっているのが、「操作」や「記憶」を前提とした生活製品の存在です。
たとえば、
テレビのリモコン
ボタンが多く、機能がわかりづらいため、操作ミスが頻発。
→ 解決策:大きなボタンと色分けにより視認性を向上。
衣服の着脱
ボタンの操作が難しく、着替えが苦痛に。
→ 解決策:マジックテープや伸縮素材で、見た目はそのままに機能性を改善。
ガスコンロ
火の管理が難しく、事故のリスクが高い。
→ 解決策:IHコンロ+自動停止機能で安全性を確保。
買い物の記憶
買うものを忘れてしまう。
→ 解決策:家族と連携できるメモ機能付きの買い物アプリを導入。
「認知症に優しい設計」
ビジネスの世界では、ユーザー体験(UX)の向上が競争力に直結します。
認知症向け製品も同じで、「誰でも使える」ことよりも「その人にとって使いやすい」ことが重要です。
認知症対応製品は、ユニバーサルデザインに近い発想を持ちながらも、より個別対応が求められる点が特徴です。
具体的には、
・複雑な家電製品の操作性を「見やすさ」「押しやすさ」「反応の分かりやすさ」に分解。
・認知症の症状に応じて、機能をシンプルにしたり、音や光で補助する。
このような考え方は、障がい者支援や子育て支援、外国人対応の分野にも応用可能で、ビジネスの可能性も広がります。
認知症対応市場は、次の成長分野
日本総合研究所によると、「認知症でも使いやすい製品・サービス」の市場規模は2030年には約987億円、2050年には5300億円を超えると予測されています。
この成長は、日本国内にとどまらず、今後高齢化が進むアジア諸国や欧米にも広がる可能性があります。
ただし、製品の流通には以下のような課題もあります。
・介護事業者との連携が不足し、現場に届かない
・安全性や品質に関する信頼基準があいまい
そのため、行政による「認証制度」や、「現場とのつながり」を重視した流通設計が求められます。

まとめ
介護者として、いま私たちができること
新しい認知症観が広がるなか、介護者として果たすべき役割は変化しています。
ただ見守るのではなく、認知症の方が「自分らしく暮らせるように支える」ことが求められています。
介護者の具体的アクション
・認知症の方を「サポートされる人」ではなく「暮らしのパートナー」として尊重する
・製品やサービスを自立支援の視点で選ぶ
・家族や地域と連携して、製品改善のフィードバックを企業へ届ける社会全体としての課題と対応
・官民連携で市場を育てると同時に、製品の安全性・信頼性を高める仕組みづくりが必要です。
・高齢者目線のデザインや操作性に配慮した製品開発を推進しましょう。
・「誰でも使える」から「その人のための使いやすさ」へ、意識の転換を。
「認知症とともに生きる時代」は、すでに始まっています。
製品やサービスが変わることで、私たちの関わり方もまた変わっていくはずです。



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