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ゆかりの地へ「旅行葬」、
霊きゅう車で故人と思い出巡り
2025/10/25 11:30
日経速報ニュース

【この記事の内容】
『“死は施設で迎える時代”あなたの親が孤立する現実とは?』
はじめに
介護の現場から見える「旅立ちの新しいかたち」
介護の世界には「人生の最終段階(エンド・オブ・ライフ)ケア」という考え方があります。
これは、死を“終わり”ではなく、“人生の集大成”としてどう支えていくかを考えるものです。
その延長に、近年注目されているのが「旅行葬(りょこうそう)」です。
霊きゅう車やマイクロバスにひつぎを載せ、故人が愛した場所を巡るこの葬送スタイルは、「もう一度あの場所へ行きたい」という生前の想いを、家族が一緒に叶える“最後の旅”でもあります。
本記事では、介護者・高齢者・家族・地域という4つの視点から、旅行葬が生まれた背景と、現代の多死社会に与える意味を考えていきます。
旅行葬とは?
「別れ」から「再会」へ
旅行葬とは、葬儀の前後に霊きゅう車やバスで遺体を運び、故人ゆかりの地を巡る葬送のかたちです。
斎場での儀式だけで終わる従来の葬儀とは違い、“思い出の風景”を背景に、家族が故人と語らう時間を持てるのが特徴です。
従来の葬儀が「別れの場」だとすれば、旅行葬は“再会”と“感謝”の時間でもあります。
それはまるで、過去と現在、そして生と死が静かに交わるひとときのようです。
なぜ「旅行葬」が注目されるのか
多死社会と介護の現実
長寿化と「健康寿命」のギャップ
日本は世界でも有数の長寿国ですが、健康で自立して生活できる「健康寿命」は平均寿命より約10年短いといわれます。
そのため、人生の最期を病院や介護施設で迎える人が多くなりました。
「行きたかった場所に行けなかった」
「もう一度帰りたかった」
そんな“心残り”を抱えたまま亡くなる人も少なくありません。
旅行葬は、その未完の願いを家族が代わりに叶える“心の介護”としての意味を持ちます。
コロナ禍と葬儀文化の変化
新型コロナウイルスの流行を機に、「一般葬」が減り、家族だけで行う「家族葬」や「直葬(ちょくそう)」が増加しました。
大人数が集まれない時代に、旅行葬は“形ではなく心で送る葬儀”として注目されているのです。
言い換えれば、形式的な別れよりも「その人らしい最期」を大切にする流れが加速しています。

介護者視点
看取りの延長としての旅行葬
介護現場では、「看取りケア(みとりケア)」という言葉が広く使われています。
これは、死を看取ることではなく、人生を見届けるという考え方です。
旅行葬は、この看取りの考え方を“旅”という形で実現したものです。
介護者が支えてきた人生の最終章を、移動という具体的な行為で締めくくることができます。
長い介護を終えた家族は、深い喪失感に包まれることがあります。
旅行葬を通して「最後まで一緒にいられた」という実感を得ることは、介護者の悲嘆(グリーフ)を癒やす大切なプロセスになるのです。
高齢者視点
叶わなかった夢を家族に託す
高齢者の多くは、体が不自由になってから「もう一度あの景色を見たい」と願います。
しかし、介護施設での生活や医療的制約により、その願いは叶えられないことが多いのが現実です。
旅行葬は、その想いを家族が代わりに果たす「人生の代筆」です。
たとえ本人が亡くなっていても、その人が歩んできた道を家族が辿ることで、“生きた証”が再び家族の記憶の中に息づきます。
家族・地域の視点
旅行葬が抱える課題とこれから
旅行葬の広がりとともに、費用や手配、地域ごとのルールなど新たな課題も生まれています。
家族には移動や費用の負担、地域には火葬や葬儀場所に関する法的・文化的な違いがあります。
こうした課題に対しては、葬儀社・自治体・宗教者が協力し、柔軟な仕組みを作ることが求められます。
また、介護現場でも「看取りのあと」に家族が孤立しないよう、葬送後の支援=“アフター介護支援”の体制を整える必要があります。
旅行葬は、葬儀という儀式にとどまらず、地域全体で悲しみを分かち合う新しい文化を育てていく鍵にもなり得ます。
介護から葬送へ
「その人らしさ」を支えるという発想
介護の基本には「自立支援」という考え方があります。
これは、身体の機能を回復させるだけでなく、その人が“自分らしく生きること”を支えるという意味です。
この発想を葬送に転用すると、旅行葬は“死後もその人らしさを支える葬儀”といえます。
介護で「生き方の尊重」を支え、葬送で「生き様の尊重」を形にする。
旅行葬は、まさに“介護の哲学が生き続ける葬儀”なのです。
まとめ
介護者として、故人と共に旅するという選択
旅行葬は、単なる移動型の葬儀ではありません。
それは、介護者・家族・地域が人生を振り返り、感謝を形にするためのプロセスです。
介護者が故人と旅をするという行為には、
・最後の看取りを「同行」として締めくくる
・故人の願いを家族の手で叶える
・生と死のつながりを再確認する
という意味が込められています。
多死社会のいま、「旅立ち」とは別れではなく、“共に生きた時間をもう一度めぐる”新しい弔いのかたちなのかもしれません。



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